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福岡地方裁判所 平成8年(ワ)2827号 判決 1997年5月26日

主文

一  被告は、原告に対し、金七五万八五八五円及びこれに対する平成八年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、平成九年六月五日、平成一〇年六月五日、平成一一年六月五日、平成一二年六月五日、平成一三年六月五日、平成一四年六月五日及び平成一五年六月五日限り、それぞれ金四九万二八五〇円ずつを支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告の、その余を原告の負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告に対し、八二万三六四六円及びこれに対する平成八年六月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、平成九年六月五日、平成一〇年六月五日、平成一一年六月五日、平成一二年六月五日、平成一三年六月五日、平成一四年六月五日及び平成一五年六月五日限り各四九万二九〇七円を支払え。

第二  事案の概要等

本件は、原告が和議会社である被告に対して有する約束手形金の相殺権行使後の残額について、和議条件に従った金員の支払及び期限到来分に関する訴状送達日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  被告は、平成三年一二月一八日、次の約束手形二通を振出し、原告は、右各手形を所持している(手形の所持の事実は、弁論の全趣旨により認定可能)。

(一) 金額 一〇〇〇万円

満期 平成四年六月五日

支払地及び振出地 福岡市

支払場所 株式会社福岡シティ銀行呉服町支店

振出日 平成三年一二月一八日

振出人 被告

受取人 原告

(二) 金額 四三九万九三一六円(その余の手形要件は(一)と同じ。)

2  被告は、平成元年一一月三〇日ころ、原告に対し、コンクリートポンプ車一台を、代金二二六八万三一一八円(平成二年一月から平成六年一二月まで毎月末日限り三七万八四〇〇円ずつ(最終回は三五万七五一八円)支払う。)、遅延損害金は日歩一〇銭とするとの約定で売り渡した。

原告は、右売買代金中、支払日が平成四年五月末から平成五年四月末までの一二回分(金額合計四五四万〇八〇〇円)の支払を怠っている。

3  被告は、平成四年五月八日、福岡地方裁判所に対し和議手続開始の申立てをし、同裁判所は、同年一一月二日、和議開始決定をし、右手続において、被告は、和議認可決定確定の日から一年目を第一回とし、爾後一年ごとに一〇回にわたり、各和議債権元本の五分ずつを支払うことを内容とする和議条件を提出し、右和議手続は平成五年四月二八日に認可され、同年六月五日に確定した。

4  被告は、原告に対し、平成元年一一月ころ、デリバリーホース及びベント管を、代金合計六万四八九〇円で売り渡した。

5  被告は、平成七年一一月一六日に、原告に対して、和議債権六五万五〇七五円を支払い、その際、4記載の売買代金債権六万四八九〇円を自働債権として、原告の和議債権の期限到来分の対等額において相殺する旨の意思表示をした。

6  被告は、本件第二回口頭弁論期日において、2記載の売買代金債権四五四万〇八〇〇円及び各支払日の翌日から和議債権の第一回支払期日である平成六年六月五日まで日歩一〇銭の割合による遅延損害金合計二五七万六五二一円の合計七一一万七三二一円を自働債権とし、原告の和議確定後の和議条件にしたがった債権を受働債権として、原告の和議債権の支払期日の早いものから順に、その対等額において相殺する旨の意思表示をした。

7  原告は、本件第四回口頭弁論期日において、和議条件に拘束されない1記載の手形債権を自働債権とし、2記載の売買代金債権残額四五四万〇八〇〇円及び年六分の割合による遅延損害金三七三円を受働債権として対等額において相殺する旨の意思表示をした。

8  被告は、和議債権について支払義務を争い、支払わない。

二  争点

1  原告による相殺の適法性

(原告の主張)

(一) 和議認可決定後でも、相殺の担保的効力を重視すれば、和議条件に拘束されないで相殺の意思表示ができると解すべきである。

(二) 本件においては、原告は、被告に対して、争いのない事実等2記載の債務の支払のために約束手形を振り出し、被告はそれを第三者に譲渡し、原告は、右手形の支払呈示を受けていたから、右手形金の支払を余儀なくされる可能性があった。したがって、原告が相殺権の存在を知りながら、あえて相殺をせず、相殺権を放棄したと認められるような事情にはない。

(被告の主張)

(一) 和議条件に拘束されないで相殺の意思表示をするのは、和議法に違背した相殺権の行使である。

(二) 原告は、和議認可決定の確定前に相殺権を行使できたのに、しなかったのだから、和議条件に拘束されるのもやむを得ない。手形の支払呈示を受けていても、別個の債務である売買債務について相殺をするのは可能であった。

2  部品の売買債務の免除

(原告の主張)

争いのない事実等4の債務について、平成二年二月下旬ころ、被告は右債務を免除する旨の意思表示をした。

(被告の主張)

否認する。

第三  争点に対する判断

一  原告による相殺の適法性について

和議法五条によって準用される破産法九八条は、相殺権は、破産手続によらないで行使することができる旨を規定し、別途権と同様(同法九五条)に取り扱うこととしている。この規定は、相殺は、これによる決済を信頼して交互に相手方に債権を保有し合うという担保的効力を有しており、債権質類似の機能を営んでいることから、この相殺の担保的効力を重視し、少なくとも別途権と同等に保護するのが、当事者間の公平に合致するというものであると考えられる。そうすると、和議法四二条を類推適用し、相殺権は、一般の優先権ある債権に含まれ、同法五七条、破産法三二六条一項の適用を受けないと解するのが相当である。

本件においては、相殺権者である原告は、和議を確知しながら相殺権の行使をしないで和議手続に参加し、一旦は、和議条件に服しているのであるから、信義則上、相殺権の放棄があったと評価する余地もない訳ではない。しかしながら、証拠(甲第一ないし第八号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、争いのない事実等2記載の売買代金債務の支払のために約束手形を振り出し、被告はそれを第三者に譲渡していたことから、和議認可手続決定がなされる時点においては、右手形の決済を余儀なくされる可能性があり、現に和議申請後、右手形により右売買代金債務二〇回分の決済が行われていること、本件の平成四年五月末から平成五年四月末までの一二回分(金額合計四五四万〇八〇〇円)の売買代金債務も、一旦は、約束手形による決済を求められていたことという事実を認定することができるから、原告が相殺権を行使することなく和議手続に参加したことから、信義則上、相殺権を放棄したものと評価するのは相当でない。なお、本件においては、原告による相殺の意思表示に先立って、被告による相殺の意思表示がされているが、その意思表示の先後によって相殺権の効果に異同が生じるものとは考えられない。

二  部品の売買債務の免除について

原告は、部品の売買債務について、免除の意思表示があったと主張するが、その具体的な証拠は存しないから、右主張は採用できない。

第四  結論

原告が行使する相殺権の受働債権は、争いのない事実等2記載の売買代金債務であり、原告には、三七万八四〇〇円について、平成四年六月一日から相殺適状になった同月五日までの四日間日歩一〇銭(一五一四円)の遅延損害金が発生している。したがって、原告が被告に対して有する債権額は、九八五万七〇〇二円であり、これを和議認可決定のあった和議条件に従えば、四九二万八五〇一円が免除され、平成六年六月五日から平成一五年六月五日まで、毎年六月五日限り、四九万二八五〇円ずつを支払うべきことになる。そして、弁済期が到来している債権額は、一四七万八五五〇円であるところ、支払ずみの六五万五〇七五円を控除し、さらに、右弁済期前に相殺適状のあった部品の売買代金債務六万四八九〇円(原告は相殺権を行使していない。)について、被告が和議条件に則った相殺の意思表示をしていることから、これを控除した七五万八五八五円が、現段階で原告が被告に対して請求し得る債権額であることになる。

したがって、原告の請求は、七五万八五八五円及びその付帯請求並びに平成九年六月五日から平成一五年六月五日まで、毎年六月五日限り、四九万二八五〇円ずつを請求する限度で理由があるから、これを認容し、原告のその余の請求には理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。なお、主文第二項に係る仮執行宣言の申立て及び仮執行免脱宣言の申立ては、相当でないからいずれも却下する。

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